こんにちは、Xenoです!
今回は『熱力学第一法則(内部エネルギーとエンタルピー)』について解説します。
熱力学第一法則は熱力学において最も重要な法則と言っても過言ではありません。
この法則を利用していくことで熱力学の世界をさらに広げていくことができるのです!
今回の記事を読めば閉じた系や開いた系における熱力学第一法則や、それに関わる内部エネルギーやエンタルピーについて理解することができます。
それでは始めましょう!
前回の記事はこちらからどうぞ!

ジュールの実験
1845年にジェームズ・プレスコット・ジュール(Jamesb Prescott Joule)によって行われた『ジュールの実験』と呼ばれる有名な実験があります。
実験装置
下図は実験で使われた装置のモデルです。

円筒形の容器に水を入れて、その中に羽根車を取り付けます。羽根車の回転軸にはプーリが取り付けられていて、そこに糸がまかれています。
そして、糸の先には\(m[kg]\)のおもりが結ばれていて、このおもりを落下させることによって羽根車が回転します。
実験方法
実験方法はシンプルで、おもりを静かに落下させて重力による仕事によって羽根車を回転させます。
その後、羽根車が静止した後に温度計を用いて温度上昇を計測します。
ジュールはこの実験から仕事と熱の関係を明らかにしたのです。
熱力学第一法則の定義
ジュールの実験によって、仕事は一定の割合で熱へと変換されることが判明しました。
これにより、仕事はすでに力学的エネルギーとして確立していたため、熱もエネルギーの一形態であることが明らかとなったのです。
熱と仕事が等価であることを示したこの法則を『熱力学第一法則』といいます。
- 熱力学第一法則
-
熱と仕事は互いに一つのエネルギー形態であり、仕事を熱に変換することも、熱を仕事に変換することも可能である。
内部エネルギーとエネルギー保存則
内部エネルギーと比内部エネルギー
系を介して行われるエネルギーのやり取りを表すため、新たに『内部エネルギー』を考えます。
内部エネルギーとは、系に何も外力が作用していないときに保有しているエネルギーであり、\(U[J]\)と表します。
そして、1[kg]あたりの内部エネルギーは『比内部エネルギー』と呼ばれ、\(u[J/kg]\)と表します。
比内部エネルギーの定義は以下の通りです。
\[u=\frac{U}{m}[J/kg]\]
エネルギー保存則

上図のような、あるエネルギーのやり取りを許すような系を考えます。
この系に入るエネルギーを\(E_{in}\)、系から出ていくエネルギーを\(E_out\)とすると、系の内部エネルギー変化\(dU\)は、以下の様に表すことができます。
\[dU=E_{in}-E_{out}\]
このような関係が成り立つ法則を『エネルギー保存則』といい、上式は一般的に『エネルギー保存式』と呼ばれます。
閉じた系の熱力学第一法則
まずは、閉じた系におけるエネルギーの出入りを考えてみましょう。
閉じた系のエネルギー移動

上図のような作動流体が面積\(A[m^2]\)のピストンとシリンダーに閉じ込められている状態を考えます。
この系に対して外界から加熱量\(Q_{12}[J]\)が加えられ、外界に対して\(L_{a}\)の仕事が行われています。
閉じた系の熱力学第一法則の式
内部エネルギーの変化\(dU(=U_2-U_1)\)は次式で表されます。
\[dU=U_2-U_1=Q_{12}-L_a\]
この式を変形すると、
\[Q_{12}=dU+L_a\]
以上より、この式を『閉じた系の熱力学第一法則の式』といいます。
熱力学の第一基礎式
また、微小な状態変化を考えて、加熱量を\(dQ\)、外界に対して行った仕事を\(dL_a[J]\)とすると、熱力学第一法則の微分系は以下のように表せます。
\[dQ=dU+dL_a=dU+pdV [J]\]
この式を『熱力学第一基礎式』といいます。
熱力学第一基礎式は1[kg]あたりとして、次のように表すこともできます。
\[dq=du+dl_a=du+pdv [J/kg]\]
開いた系の熱力学第一法則
次に、開いた系におけるエネルギーの出入りを考えてみましょう。
開いた系のエネルギー移動
下図のようなシリンダーに吸気バルブと排気バルブがついており、そこから作動流体が流入出する状態を考えます。

初期状態
まず、初期状態ではピストンがシリンダーの左端にあるため、系内のエネルギーは\(0[J]\)です。

作動流体の流入
吸気バルブの弁が開かれ、\(U_1+p_1v_1[J]\)のエネルギーを持つ作動流体が系に流入します。
作動流体は\(p_1V_1[J]\)のエネルギーを使ってピストンを\(x_1\)の距離まで移動させるため、この時点で系内に残るエネルギーは\(U_1[J]\)のみとなります。

膨張変化
次に、系に対して外界から加熱量\(Q_{12}\)が加えられます。
その後、作動流体は膨張してピストンを\(x_2\)の位置まで移動させ、外界に対して絶対仕事\(L_a\)が行われます。
この過程で系内の内部エネルギーは\(U_1\)から\(U_2\)に変化します。

作動流体の流出
最後に排気バルブの弁が開き、作動流体が流出してピストンがシリンダーの左端まで移動します。
この過程で系はピストンの移動によって\(p_2V_2\)の仕事のエネルギーを得ますが、系が保持していた内部エネルギー\(U_2\)と合わせて系から流出し、結果的に系内のエネルギーは\(0[J]\)へと戻ります。

開いた系のエネルギー保存
以上より、この一連の動作で系に入ったエネルギーと出たエネルギーは等しくなります。
なぜかと言うと、動作の工程がすべて終了した段階で系内に残っているエネルギーが\(0[J]\)だからです。
これにより、以下の式が成り立ちます。
\[U_1+p_1V_1+Q_{12}+p_2V_2=p_1V_1+L_{12}+U_2+p_2V_2 (1)\]
左辺が系に入ったエネルギーの総和、右辺が系から出たエネルギーの総和を表しています。
エンタルピーと比エンタルピー
式(1)を見ると作動流体の出入りのときに、必ず\(U+pV\)が現れることが分かります。
これを次の式で定義し、『エンタルピー』と呼びます。
\[H=U+pV [J]\]
エンタルピーは状態量であり、文字記号は\(H\)で表します。
また、1[kg]あたりのエンタルピーは『比エンタルピー』といいます。
文字記号は\(h\)で表され、以下の様に定義されます。
\[h=\frac{H}{m}=u+pv [J/kg]\]
今回の場合、エンタルピー\(H\)は、出入りする作動流体が持つエネルギーを表しています。
開いた系の熱力学第一法則の式
エンタルピー\(H\)を式(1)に当てはめると次のようになります。
\[H_1+Q_{12}+p_2V_2=p_1V_1+L_{12}+H_2\]
\[Q_{12}=H_2-H_1+p_1V_1+L_{12}-p_2V_2\]
ここで、\(p_1V_1+L_{12}-p_2V_2\)は工業仕事\(L_t\)を表しているので、エンタルピー変化を\(dH(=H_2-H_1)\)とすると以下の式で表すことができます。
\[Q_{12}=dH+L_t [J]\]
以上より、この式を『開いた系の熱力学第一法則の式』といいます。
熱力学の第二基礎式
また、微小な状態変化を考えて、加熱量を\(dQ\)、外界に対して行った仕事を\(dL_t\)とすると、開いた系の熱力学第一法則の微分系は以下のように表せます。
\[dQ=dH+dL_t=dH-Vdp [J]\]
この式を『熱力学第二基礎式』といいます。
熱力学第二基礎式は1[kg]あたりとして、次のように表すこともできます。
\[dq=dh-vdp [J/kg]\]
定常流動系の熱力学第一法則
最後に、開いた系における運動エネルギーと位置エネルギーが無視できないときの熱力学第一法則を導いて見ましょう。
定常流動系のエネルギー移動

上図のような入り口から作動流体が流入して、外界に対して工業仕事\(L_t\)を行った後に、出口から流出していくことを考える。
ここで、新たに流速を\(w[m/s]\)、高さを\(z[m]\)と定義すると、系に出入りするエネルギーは下表のように表される。

定常流動系の熱力学第一法則の式
出入りするエネルギーは互いに等しい為、次式のように表されます。
\[U_1+mgz_1+\frac{1}{2}mw^2_1+p_1V_1+Q_{12}=U_2+mgz_2+\frac{1}{2}mw^2_2+p_2V_2+L_t\]
ここで、\(H=U+pV\)と\(dH=H_2-H_1\)を用いて変形すると、
\[H_1+mgz_1+\frac{1}{2}mw^2_1+Q_{12}=H_2+mgz_2+\frac{1}{2}mw^2_2+L_t\]
\[Q_{12}=dH+mg(z_2-z_1)+\frac{1}{2}m(w^2_2-w^2_1)+L_t [J]\]
以上より、この式を『定常流動系の熱力学第一法則の式』といいます。
因みに、位置エネルギー及び運動エネルギーを無視できると考えると、以下のように表せます。
\[Q_{12}=dH+L_t [J]\]
これは開いた系の熱力学第一法則の式と一致することが分かります。
まとめ
今回は『熱力学第一法則(内部エネルギーとエンタルピー)』について解説しました。
工業熱力学では今回紹介した熱力学第一法則の式を駆使しながら様々な状態変化を表していきます。
何度も読み返しながら理解を深めていってください!
次回は『完全ガス(理想気体)の状態方程式』について解説します。
それでは、また次の記事でお会いしましょう!



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